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書評:ゲームデザイナーのための空間設計 歴史的建造物から学ぶレベルデザイン

Level Design

この度、出版社のボーンデジタルさんより新刊のゲームのレベルデザインの専門書「ゲームデザイナーのための空間設計 歴史的建造物から学ぶレベルデザイン」を店頭発売より一足先に頂いてレビューする事となった。以前からTwitter等でレベルデザインの話をしていた事に先方が関心を持って頂いていたという経緯である。私も最近は元来の意味でのレベルデザインが必要な世界体験型のゲームを作っていない事もあり、この機会にこの本でもう一度学び直そうと考えた。ボーンデジタルさんによると本書で学べる事は、

・現代のレベルデザインの慣習、手法、ツールに関するケーススタディ
・歴史的建造物の考察から優れたレベルデザインについて学ぶ
・空間を使用してプレイヤーの感情を導いたり、引き出したりする方法
・現実世界に影響を与える目的で作られた空間デザインの考察
・ストーリーの伝達、アクションの促進、交流を推進する空間作成

であるらしい。

なお、本書の内容についてのレビューの前に一つ言及したいことがある。日本においてはレベルデザインという言葉が「難易度調整」や「オンラインゲームにおけるコンテンツ消費速度の調整」という意味で使われることが多い。しかしそれは明らかな誤訳であり、本来の言葉の意味とはかけ離れている。レベルデザインのレベルとは、難度やプレイヤーの成長を示す数値のことではなく区切られたゲームプレイの一単位を示す。ゲームプレイの単位をマップで区切るゲームでは、マップの空間設計をしてゲームプレイの内容を形作ることをレベルデザインと呼ぶ。その目的はプレイヤーにエモーショナルな体験を提供する事であり、体験の種類に対する適切な空間設計を現実の建築から学ぶことが本書の目的である。よって、「難易度調整」や「オンラインゲームにおけるコンテンツ消費速度の調整」に関する話はほとんで出てこないので、そういったトピックを求めている人は注意が必要である。もっとも、そのように言葉の意味を誤解している人にとっても本書で正しい意味のレベルデザインを知るのは大変価値があると言える。

多角的な視点からの深い考察

実際に本の中を見ると以下のような章立ての構成だが、レベルデザインという一ジャンルに対してこれだけ多様で多角的な視点からその原理原則について論じている。
  • Chapter1 建造物からレベルデザインを学ぶ準備

建築の歴史を振り返り、古くから建築は訪問者に何かを体験させるという観点から設計されていた事、それはゲームデザインやレベルデザインの本質に繋がるという話。建築の三大要素である「強」「用」「美」をそれぞれゲームレベルの「機能要件」「ユーザビリティ」「喜び」に置き換え、同時に「建物を理解するための10の方法」を「レベルデザインの10の方法」に置き換える視点を提供する。

  • Chapter2 レベルデザインのツールとテクニック

レベルデザインの具体的な作業内容やワークフローについての説明。UnityやUnrealやHammerといったエディター統合型ゲームエンジンについてはもちろん触れているが、興味深いのはアナログのツールについての話である。また、日本のゲーム開発の現場ではあまり見ないCADツールについての説明もある。ここで重視してるのは、ツールの使い方それ自体ではなくてそれぞれのツールにメリットとデメリットがあり、最終的なゲームの要求スペックやレベルデザインの発想の方法によって適したツールが変わることである。例えばUnityのスケール1が1mをあらわす事と頂点スナップの機能によって、方眼紙によってスケッチしたレベルを正確にプロトタイピング出来ると述べている。

  • Chapter3 基本的な空間配置とゲーム空間の種類

2D/3D問わずあらゆるゲームジャンルのレベルデザインにおける効果的な空間設計の例を紹介している。空間設計のルールは一定ではなく、ジャンルによってあるいはユーザーに提供したい体験の種類によって適した設計は異なる。また、カメラの仕様を考慮した適切な設計についても言及されている。もし、レベルデザインの初心者で今すぐ知識が必要な人はこの章から読み始めたらいいかもしれない。

  • Chapter4 ビジュアル要素によるチュートリアル

GUIによるガイドを使わずに地形や空間の特徴やランドマークによってプレイヤーの行動をアフォードする事について書かれている。GUIを一切使わないのはレベルデザイナーの究極の目標と言っても良い。私の考えでは、ここで紹介されている環境にシンボルを取り入れる例については単にGUIによるガイドがゲーム内のオブジェクトになっただけと言えなくもないが、それでもプレイヤーはGUIで表示されるガイドよりは100倍もゲーム世界に没入できるというのは分かる。また、カットシーン(スクリプトシーケンス)によるゲームプレイのデモンストレーションについても紹介されているが、これはいかにもゲームという表現方法で私自身は好きではない。しかしここで重要なのはそのようなやりつくされた方法について全て網羅して、その意図を解説している事である。そしてそれは読者にとって新たな発想のヒントとなる。例えば、構成主義によるティーチングというメソッドが紹介されている。それは「プレイ結果の観察と省察、戦略の作成、新しい戦略のテスト、障害の克服」という4つの要素を順にイタレーションするプレイヤーの学習モデルの事だが、一見すると以前私がCEDECでのポスター発表で紹介した「Operation(観察), Plan(計画), and Action(実行)の原則」と呼んでいたものと全く同じ話をしているように見える。しかし、本書に書かれているのはプレイヤーの失敗とリトライを前提とした話で、私がOPAの原則と呼んでいるものはプレイヤーに失敗させないレベルデザインの理論である。そのような違いを認識するだけでもこの章は読む価値がある。(全体的にこの章は失敗とリトライによる学習の価値を評価する向きにあり、それが嫌いなプレイヤーが一定数いる事も念頭に置いて読まなければならない。)

  • Chapter5 生存本能を利用したレベルデザイン

リスクのデザイン、危険性の表現について。現実の建築が危険から安全に人を誘導するのに対して、時にゲームレベルはプレイヤーを意図的に危険へと誘う。この章では眺望空間(危険地帯)と避難空間(安全地帯)からなる設計に対して眺望空間を越えた先にある2次避難空間を作ってプレイヤーを誘導する手法などが紹介される。また、眺望空間と避難空間の関係性についてはル・コルビジェやフランク・ロイド・ライトの建築を例に掘り下げて説明している。なお、この章は過去にGamasutraに寄稿したこの記事が元になっているらしい。 Designing Better Levels Through Human Survival Instincts

  • Chapter6 報酬の空間でプレイヤーを誘い込む

報酬によってプレイヤーを誘導する理論と、建築の知識によって報酬を見え隠れさせる手法についての説明。ここではレベルデザインにおける報酬の目的を以下の3つに定義している。

1.ゲーム内の行動を奨励する
2.探索に誘い出す
3.好奇心をかき立てる

1,2は例えばRPGのダンジョンにおいて、ゴールとは関係ない所に宝箱を置いて、結局はプレイヤーにダンジョンをくまなく探索させるような設計である。これについて私の考えを言うなら、報酬を提示してプレイヤーに回り道やリスクある行動をさせる設計には「やらされてる感」というリスクが伴うので、レベルデザインにおける報酬はまず好奇心をかき立てる事から発想しないとならない。好奇心によって突き動かされた体験それ自体を報酬とする事で、レベルデザインをナラティブデザインへと近づけるのが私自身が課題として考えている事である。本書でもその場の景色それ自体や物語に関する情報を報酬とする方法を紹介し、次章のストーリーテリングに話を繋げている事から、ナラティブデザインとレベルデザインが同義になるゲームの未来を見据えていると言える。

  • Chapter7 ゲーム空間におけるストーリーテリング

最も重要な章かもしれない。特に言葉の誤訳からレベルデザインという仕事が認知されていない日本においては、この領域はシナリオライターの仕事と環境アーティストの仕事に分断されてしまっている現実がある。ゲーム空間は、プレイヤーが物語を体験すること、その物語の理解を助ける情報を提供すること、それとプレイヤーが自分自身の物語を作るためにある。本書では歴史的建造物や歴史的事件の記念館がそのデザインによって物語を伝えた例を紹介し、また、オンラインゲームの世界においてプレイヤーの間で語り継がれる物語が生まれた事例も紹介する。ゾンビゲームでよく見られる、小物アセットを散乱させる事で過去にその場で悲惨なできごとがあったと表現する例や、Portalにおける隠し部屋等のイースターエッグの例はやり方としてすぐに真似できる物だが、具体的な手法そのものより大事なのは、この章で紹介される英雄物語の構造や、ドラマティックアークの構造等を知り、空間デザインやゲームプレイの進行の設計において常に意識する事に思える。

  • Chapter8 インタラクティブ空間とワールドデザイン

実は最も理解に苦しんだ章である。この章のレビューをどう書けば良いか悩んだのでこの記事の公開が遅れた。ここでは、英語圏のゲームデザイン関連書籍を見ると必ずと言って良いほど目にする「創発性(emergent)」という概念について触れている。これは、ゲームプレイ中のある特殊な条件が揃った時に、ゲームデザイナーにとって想定外のゲームプレイが生まれる事を指す。例えばMMORPGのプレイヤーなら、本来タンク(盾)としてデザインされていないクラス(職種)が特定の装備品や消費アイテムやスキルを掛け合わせてタンクの役割を担う光景等は目にしたことがあるはずだ。また、私の作ったゲームだとBFBというサッカーシミュレーションゲームで、センターバックをポストプレイヤーとしてワントップに置いたり、クロスの得意なサイドバックの選手をウィングに起用するプレイヤーがいたのも創発の例と言える。そのようなゲームプレイの創発の重要性は私も以前から意識していた事であるが、本書では創発されるプレイヤー自身の物語とデザイナーの意図した物語が相反するリスクについて言及したうえで、創発性を取り入れるデザインとして「可能性空間」という概念を提示している。マリオやゼルダのレベルデザインの例を挙げ、可能性空間とはマップの概観を見せる事でプレイヤーがその場で取り得る行動の可能性を複数提示し、プレイヤーの選択に対する意識や順番に行動の可能性限界を越えていく事の達成感を高める事を目的とする物としている。それ自体はよく分かるし、宮本茂氏がヒントを得ていたという日本庭園の構造についての説明は大変興味深い内容であるのだが、私には創発性とは無関係のトピックに思えた。というのも、環境とプレイヤーのインタラクションという観念だけでは創発性は生み出せない。何故なら環境の与えた情報から想像されるゲームプレイを超越する事こそがプレイヤーにとってもデザイナーにとっても驚きであるからだ。そのためには場所や特定の環境に縛られないゲーム要素の存在が必要不可欠であり、多くの場合それはアイテムやスキル(魔法)や乗り物等、場所の制限を受けずに移動可能、携帯可能な物として提供される。本書で創発性の例として挙げられているFPSの「ロケランジャンプ」にしても、ロケットランチャーというアイテムの仕様が環境を無視する例である。この章では、先に創発性を提示したのにその後環境に縛られた行動選択肢の提示という方法を紹介してしまっているので、創発性について大きな誤解を生むリスクがある。それを除けば可能性空間という考え方それ自体はレベルデザインの原理原則として価値あるものなので、創発性については一旦脇に置いて読むのが良いだろう。

  • Chapter9 プレイヤーの交流を生み出すレベルデザイン

ここでも創発という言葉が使われているが、やはり本題とはあまり関係ない。というより筆者は常にゲームデザイン用語としての創発ではなくて一般名詞として創発という言葉を用いているのかもしれない。あるいは翻訳の段階で複数の異なる言葉が同じ創発という語に訳されてしまっているのかもしれない。さて、この章は現実の都市計画からオンラインゲームにおけるプレイヤー同士の交流機会の設計を学ぶ内容となっている。都市を機能別のディストリクトに分けた結果住人同士の交流がなくなったモダニズムへの反省から、機能の混用というコンセプトを提唱したニューアーバニズムという流れを紹介し、そのニューアーバニストの原理原則から設計されたゲーム内都市の例としてWorld Of WarcraftのStromwindを挙げている。余談だが、ここで例に挙げられているStormwindの正門周辺の地区についてだが、私がWorld Of Warcraftで初めて訪れた時にはどちらかというと前章の「可能性空間」としてのデザインのクオリティに感嘆してしまった記憶がある。正門から足を踏み入れると各商店の看板がUI的に画面に整然と並ぶ概観が意図的にデザインされていて、明らかにレベルデザイナーにアフォーダンスデザインの素養が備わってる事が分かった。話を本題に戻すと、この章ではそのような緻密に設計された大都市の他に、ゲーム世界の各地に点在する小集落といった、クエストハブの重要性も指摘する。それは、文字通りクエストの発給場所であるが、そこに熟練プレイヤーも繰り返し実行できるようなクエストを置くと初心者プレイヤーとの交流機会になると書かれている。私自身も過去にMMORPGの開発に携わったが、そのような世界設計については「とりあえず広大な世界を作ってユーザーを放り込めばあとはユーザー同士が勝手に楽しんでくれる」という考えの人が多く、このように空間から交流をデザインするという考えはあまり見られなかった。創発という言葉に捉われなければこの章の内容も多くの知見に満ちていると言える。

  • Chapter10 サウンドによるレベルデザインの強化

ゲームデザインもレベルデザインもやりながら音楽を作る私にとっては最も興味深い章。マップの特定箇所に音楽再生のトリガーを仕込むとかいう単純な話ではなく、空間設計自体に音楽的なリズムを取り入れる手法を紹介している。ゲームプレイの短期的目標と長期的目標がポリリズムを成すという観点は興味深い。思い返すとファイナルファンタジーというゲームは5か6のあたりから序盤においてボス戦やダンジョンの攻略という短期的目標で躓く事が減ったのでそのリズムが崩れる事がなく、ストーリーという長期的目標に対してテンポよく向かっていくのが熱中の理由だったと思う。その他もちろん、ゲームにおける効果的なBGMの事例等も紹介されている。また、プレイヤーの行動によって変化するインタラクティブなサウンドデザインについても触れている。ちなみにこの章で度々名前が上がるのが「スキタイのムスメ」なのだが、あのゲームのサウンドが業界最高レベルにある点については異論はない。

  • Chapter11 現実世界を舞台にしたレベルデザイン
ゲームのレベルデザインを現実の都市設計に応用する話かと思ったら、いわゆるARG等の現実世界を舞台にしたゲームのレベルデザインの話だった。興味深いのはドラクエIXのすれ違い通信への言及がある点である。すれ違い通信を使ったゲームには「公と私のゲームプレイ」の行き来があるとしている。また、この章では「適応型ゲーム再利用(Adaptive Game Reuse)」という概念が紹介される。現実世界の空間をゲームメカニクスによって新たない意味や価値を付加して再利用することである。例えばIngressのポータル等がそうだろう。現実世界のレベルデザインの目的として、プレイヤーを公共空間に呼び出す事、社会的な行動を促す事等が挙げられている。まだ始まったばかりのジャンルで先行研究や参考事例が少ないため、そこまで深い考察はないのだが、最終章が扱う内容がこれである事に、未来に向けて原理原則を語り継ぐ意思を感じた。

筆者の膨大な知識に支えられた良書。全ゲームデザイナー必読。

本書を見てまず驚いたのが大量のゲームに対する言及であった。帯には、「名作ゲーム136点」と書かれているが、MGSやHALO等誰でも知ってるゲームからスキタイのムスメといった最近注目のインディー/アート系作品まで幅広く網羅されている。また、英語圏の本なので北米のゲームについての言及が多いのかと思いきや、日本のゲームやゲーム開発者への言及が多い。とにかく筆者のトッテン氏は古今東西様々なゲームに触れており、その知識量はゲーム博士としか言いようがない。大学のゲームデザイン学科の助教授だから当たり前と思うかもしれないが、では、日本のゲーム研究者やゲーム開発関連学科の教員に同等の知識量を持つ人がいるかと言うとすぐに思いつかない。

人々のゲームリテラシーは時代とともに向上し、この本で紹介されている初歩的なレベルデザインのテクニックは、逆にユーザーからすると「お約束感」や「やらされてる感」を感じさせるリスクがある。例えば枝分かれした道を見つけたらそのどちらにも報酬が用意されているのは明らかである。そしてそれを見逃すのは損なので結局は、片方の道を進んで引き返してもう一方の道へ進む事となり、そこには選択や決断の意識等存在しない。そういう意味でこの本はずぶの素人を一流のレベルデザイナーにしてくれる本ではなく、読者自身にも内容をよく吟味し検証するだけの開発経験や、ゲームリテラシーが求められる。ただし、本書の目的はここの方法論それ自体の紹介ではなく、ゲームジャンルを越えた原理原則である。レベルデザインの目的は環境によるアフォーダンスであり、建築やインテリアデザインの分野では既にアフォーダンスについての先行研究が積み重なっている。本書の内容それ自体が確かな知識ではあるのだが、それだけではゲームデザイナーやレベルデザイナーが追求すべき学問としては入り口に過ぎず、各章の末尾に載る膨大な参考文献にあたる事まで含めた知的体験を提供してると言える。ともかく日本語でこのような本を読めるだけでも貴重な知的体験と言えるのでまずは手に取ることをおすすめする。