英語でのピッチを何とかした話〜デンマークでのアーティストインレジデンス体験記(3)〜

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デンマークのアーティストインレジデンス体験記第3回(バックナンバー:第1回第2回)
今年度の応募締め切りまで数日もない(5/15追記:5/18まで延びたらしい)が普段から創作活動をしている人なら応募に必要なマテリアルは1日で揃うはずだ。既に応募した人もこれからの選考の参考にして欲しい。
第1回ではこの企画に応募して選考を通るまでの話と現地で1週目を過ごす話、第2回は他の参加者についてと2週目に受けたコンサルの話をしたが、今回はいよいよ渡航の最終目的であったピッチ(プレゼン)の話。ただ、今年の応募者の事を思って内容を考えていたらその義務感から少し気が重くなって来てしまったので、まず書きたい事について書く。

デンマーク、Viborgでの生活について

 
第1回でもこの話をしたが、ピッチについての話をする前に改めてデンマークそしてViborg市という環境について話をしたい。2週目も終わる頃にはすっかり現地での生活に慣れてきていた。講義を聞いたり自分の仕事をするThe Arsenaletと宿泊するホテルの周辺にはスーパーマーケットが3つもあったので日常的な買い物に困ることはなかった。文化水準が高く治安が良いので夜遅く歩くのも心配はなかった。Arsenaletからの帰りに閉店間際のスーパーマーケットによったついでにふらふら散歩することもあった。雨の夜なんかに古い建物が並ぶ誰もいない通りを歩くと本当に幻想的な雰囲気で自分が今そこにいるのが信じられないような気持にもなった。この国の習慣としてスーパーマーケット以外はたいてい18時くらいに閉まってしまうので土産物を探すのに少し不便に感じることもあったが、おかげで夜はいつも静かだった。(ただし、金曜日の夜は騒いでも良いという暗黙の了解があるらしく窓を開けて大音量で音楽を流してる家も見かけられた。Arsenaletでも毎週DJブースで大音量で音楽をかけていた。それにしてもそれが目立つくらいには静かだった。)土曜日は15時くらいはたいていのお店は閉まってしまうし、日曜日にいたってはほとんど営業してない。それでも経済は成り立っている。そういうの見ると東京の喧騒っていったい何なんだと思ってしまった。こっちではイライラしてる人など見かけないのだ。とても大きなベビーカーに双子か年子のきょうだいを乗せた親たちと何度もすれ違う。ここではベビーカーを邪魔もの扱いするなんて発想は誰にもない。
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宿泊していたホテルの前の通り。夜も綺麗なので遅く帰っても疲れた気がしない。

日本での暮らしを振り返る時間

 
2週目の土曜日にNipponNordicの運営を取り仕切るプロジェクトマネージャーのClemanceが自動車を1時間くらい運転して皆を海まで連れて行ってくれた。(彼女は選考における面接の相手でもあったが、英語があまりできない僕の個性や企画の可能性を信じてくれて最初から最後まで全面的にサポートしてくれたことを本当に感謝している。)現地で合流したThe Animation Workshopの校長のMorten Thorningらと一緒に静かな海岸を歩き続けると、Mortenが海を指さして「アザラシが見える」と。遥か向こうの海面に頭を出したり潜ったり繰り返してる物が確かに見えた。北欧ならではの光景だ。そしてMortenの別荘に招待して貰った。(このデンマークの別荘地というのが軽井沢の別荘地に雰囲気が似ていて逆になつかしさを感じたりもしてしまったが。)彼の別荘の庭でリンゴをむしって食べ、家の中では坂本龍一の曲聴きながらコーヒーを飲んだ。これまでの人生で最も平和な時間。そこで日本での自分の仕事とか暮らしについて思い出してしまった。日本のゲーム業界で10年以上仕事をして来た。ファイナルファンタジーのような世界的に有名なIPにも携わる事ができたし、確かにスキルアップできたと思う。僕はゲームデザインができる。Unityが使えてC#でコーディングができる。だからどうした。日本のゲーム業界の異常な競争の厳しさの中で僕に芽生えたのはリスクへの防衛反応から来る批判的な精神と異常な緊張感から来る攻撃性ではないだろうか。そのようなToo Competitiveな環境の中で夢を実現できたかというとそうではない。だからデンマークに来た。そのうえ日本のゲーム業界ときたらこれから縮小するに違いない国内市場を取り合うために熾烈な競争を繰り広げてる。(スマフォゲームの張り付き運営というのは日本でしかなない事だ。)オフィスでもTwitterでも毎日繰り広げられるマウンティング合戦。飽きた。この別荘でのMortenとパートナーの女性からのもてなしから感じたのは、純粋な善意だった。これも初めての体験なのだが、帰り際にハグした時に、何か熱いものが体の中に入ってくるのを感じた。これが「気」というものか。物理的に存在するわけではなくても、僕がそう感じてしまう何か。そしてそれは日本にはない。
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海の近くの街。どんな田舎に行っても綺麗で文化水準の高さを感じさせる。

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海に行く前にこの街で昼食。いかにも北欧という店内。

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バンズの上側がないバーガー。見た目も良いしまた美味しい。

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軽井沢に似た別荘地。

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風情ある別荘。

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コーヒーを飲んでる間そばにいてくれた猫。

第3週〜そしてピッチへ〜

 
そして3週目が始まるといよいよピッチ(プレゼン)の最終準備に入った。この段階では企画内容に新しい要素を一切追加しないようにと念を押された。僕もこれまでのゲーム開発の仕事や、CEDECなどでの発表経験からそれは理解していた。仕上げの段階では仕上げることだけに集中しなければならない。ピッチの基本的な約束ごとやテクニックについては、言わずと知れた国際アニメ映画祭アヌシーと商談会MIFAのスタッフGeraldineと、Sunny Side of the Docというドキュメンタリー作品商談会のスタッフIremが来て指導してくれた。両者とも多額の予算を動かすようなピッチをずっと観て来た人物だ。ピッチは金曜日にあったのだが、水曜日の夜には審査員がViborgにやって来て少し懇談することができた。その中にはずっと前から知っているUnity Technologiesの大前さんもいた。日本から遠く離れた所で知ってる人と会えるのはやはり嬉しいものである。しかし、その夜は2時まで残ってピッチの内容を仕上げるのに悩んでいた。そして翌日、GeraldineとIremの二人の前でピッチのリハーサルを行ったのだが、驚くことに「パーフェクト。内容については何も言うことはない。」と言って貰えた。正直ほっとした。CEDECやUniteに登壇して来た経験がここに生きて来た。一点、ゲームのテーマを印象付ける「決め」のセンテンスだけ、二人の他に色々な人の意見を貰って直す事にした。仕上げる事だけに専念していたからこそ最後の最後で細かい調整ができた。これはゲーム開発と一緒だ。また、英語で話すのがそこまで得意じゃないので原稿を綿密に用意してそれを全て暗記する事にしていた。原稿はいざという時のためにKeynoteの講演者ノートで見られるようにしているのだが、とにかく読まない。見ない。必ずオーディエンスの方を見て話すようにしてた。もしあるセンテンスを忘れてしまった時は、読まないで飛ばして次のセンテンスから話し始めるようにした。そして本番当日。大前さん以外のゲーム業界関係者は某大手パブリッシャーのヨーロッパ支社の人やArsenaletに入居する人気スマフォゲームを作ってる会社の人、北欧中心に映画に投資している会社のゲーム担当の人などがいた。それ以外はアニメ関係者や、地元デンマークが誇るLEGOの人など。このLEGOの人が水曜日に初めて会った時も声かけてくれたし、ピッチの後の質疑応答でも食いついて来てくれた。本番は特に問題なくリハーサル通りに進めることができた。この後には、あらかじめこちらから希望した2名の審査員との個別面談があった。僕は大手パブリッシャーの人と投資会社の人を選んだ。どちらかというとそっちを待つ間の方が緊張していたと思う。面談の内容についてはまた次回。

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