独立系のゲーム/アニメ作家なら絶対行くべし!〜デンマークでのアーティストインレジデンス体験記(1)〜

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日本人が参加できる海外でのゲーム/アニメ系アーティストインレジデンスがひっそり行われている

2018年9月3日~9月30日に、デンマークの地方都市ヴィボー(Viborg)にて“Nippon Nordic Universe Accelerator”というアーティストインレジデンス/ワークショップが行われる。日本・デンマーク外交関係樹立150周年記念の公式イベントとして昨年から始まった試みであり、日本とデンマークから選ばれた8人(組)ずつ、計16人(組)のアニメ・映像作家、ゲームディベロッパーが集まり講義やコンサルを受けながら自身の新作のコンセプトをクリエイティブ/マーケティングの両面から磨き上げる。最終日には日本や欧州から集まった業界人に対してピッチ(新作についての短時間のプレゼンのことをこう呼ぶらしい)をする機会が与えられ、特に審査員の目を引いた作品については、後日欧州で行われる大規模なピッチイベントに招待されるなどの特典がある。
僕は昨年9月11日から9月29日までの3週間に実施された第一回に参加した。参加の目的はヨーロッパのゲーム業界関係者に新作ゲームのピッチをすることだった。結果として、特典などは得られなかったものの、現地のパブリッシャーの人たちに新作のコンセプトや自分自身のキャラクターを印象付けることには成功した。そこからすぐに資金援助などが得られるわけではないが、自分のコンセプトの実現性について客観的な評価が得られたのは大きい。また、他の参加者や講師、受け入れ先となった学校/インキュベーション施設の関係者の人達は皆とてもフレンドリーで親切な尊敬すべき方達ばかりで、そこからも人生を変えるような影響を受けた。
このような企画が日本の業界関係者、特にゲーム業界関係者に全然知られていないのはもったいないと思う。もっと日本の人たちにこの事を知ってほしいと思い、僕がこのプログラムで体験したことをシェアすることにした。本当は昨年のデンマークからの帰りの飛行機の中でこの記事を書き始めたのだが、帰国後には本来の仕事に掛り切りでなかなか続きを書く時間が取れなかった。結果として既に今年度の募集開始から1ヶ月以上が経ち、応募締め切りである5月15日までは3週間を切ったこのタイミングに公開する事になったが、まだ時間はあるのでこの記事を読んで興味を持ったゲーム/アニメ系の作家は是非とも応募して欲しい。応募の時点で必要なのは簡易な企画書だけなので、今から準備しても数日あれば間に合うはずだから。(すでに作品を作ってる人なら応募用のマテリアルは十分に揃っているはず。)

応募の動機

僕がこのプロジェクトを知ったのはFacebookで募集の記事がシェアされて来たことだった。最初の印象では、学生や業界経験の浅いアニメーターやゲームデザイナーがスキルアップするためのものなのかなと思った。記事をシェアした人も普段から学生向けに情報をシェアしていたので、それも学生に向けたつもりだったかもしれない。キャリアが10年以上あり参加時には37歳になる自分が参加して意味のある物なのかは分からなかった。しかし、新作ゲームのピッチの機会、そして3週間の滞在に往復の飛行機チケットがついてたった900ユーロ(約12万円)という参加費用にも惹かれとりあえず応募することにした。自分のキャリアを大きく変える機会を探していたのも事実である。応募時に提出した資料には、以下のように自分の問題意識を書いた。
1.日本のゲーム産業ではスマホゲームの仕事に困ることはないが、そればかりだとスキルが偏ってくる。
2.日本のゲーム産業は強固な下請け構造で仕事に困ることがないが、オリジナル作品をリリースして成功するチャンスが少ない。自分自身のチャレンジも上手くいってない。
3.日本のゲーム産業では海外でも受け入れられるようなオリジナルのストーリーや世界観を作るスキルが軽視されている。自分自身その仕事から遠ざかっている。
4.日本のゲームは社会的影響力が小さい。商業的成功が話題になることがあっても作品の持つメッセージが話題となることがない。
僕自身、スマホゲームのおかげで自分のキャリアが大きく前進したと思っているし、基本無料で多くの人に気軽にプレイしてもらえてポジティブなフィードバックが得られるのはゲームデザイナー冥利に尽きる。スマホゲームそれ自体が日本のゲーム産業に悪影響を与えているとは全く思っていない。コンソールゲーム好きな人が時折思いつきで主張するような「スマホゲーム悪玉論」には全く賛同できないしそのような議論には興味がない。ただし、2012年ごろから続くスマホゲームブームに自分自身のキャリアが過度に依存している現状には危機感があった。今、ゲーム業界外のクライアントさんからスマホゲームの仕事をいただけているのは、スマホゲーム以前から「FF」の名を冠するゲームやその他PCオンラインゲーム等を作って来たゲームデザイナーとしての知見があってのことだ。その人間が何年も国内市場向けのスマホゲームしか作らない状況が続いたら、クライアントさんに対しても新たな価値を提供するのは難しくなってくる。また、FF11以来、ストーリーを書く仕事からも全く遠ざかってしまっていて、自分に本当にストーリーを書く能力があるのか分からなくなってしまっていた。FF11で僕が書いたクエストのストーリーが絶賛されたのはマグレだったのかもしれない。そして何より、GDH2030というオリジナルゲームの開発の失敗である。Nippon Nordicに応募した4月の時点ではまだ夏までに完成させられると思い込んでいたが、以前書いたように焦燥感の中で視野狭窄に陥っている実感はその時からあった。この開発は失敗だったと。次のゲームは企画の初期段階から多くの人にそのコンセプトをシェアして協力体制を築かないといけない。そのような危機感を抱いている時にNippon Nordicのことを知った。それは運命だったのかもしれない。

選考の過程

前述した自分の問題意識や動機を書いたMotivation Letterというものと、新作ゲームの企画を1枚にまとめたOne Pegerというものを4月中旬の締め切りギリギリで提出した。提出したOne Pagerは、何の画像も載せず、テキストだけで主に世界設定を書いたものだった。(今年度はOne Pagerじゃなくて5枚以内の企画書となっているが、内容としてはそれで十分なんだ。だから締め切り直前で応募を迷ってる人はとりあえず応募して欲しい。)毎年CEDECの「ペラ一枚企画書コンテスト」の審査員をしているが、そこではそのような企画書には大抵「世界設定は分かりました。で、どんなゲームですか?」とコメントしている。しかし企画書の要件は提出する相手や状況によって変わるというのもまた真実であり、今回に限ってはそれで良いのだと確信があった。結果、4月末に最終選考に残ったという知らせが届いた。そしてSkypeを用いて面談をしたいということだった。5月の頭にSkypeのビデオチャットで面談を行った。面談の相手はNippon Nordicのプロジェクトマネージャーで現地では感動的なまでのサポートをしてくださったフランスのアニメ業界人Clémence Bragard(クレマンス・ブラガール)だった。主に聞かれたのは、One Pagerに書かれたゲームのことだった。クレマンスはゲーム業界外の人でそこまでゲームに詳しくないし、画像も何もないのでどういうゲームかイメージしにくいから補足してほしいという事だった。ゲーム業界外の人ということもあってそこでも結局ゲームメカニクスではなく世界設定の話をしたのだが、主に日本社会に多様性が足りないこと、多様性を獲得することは僕自身がNippon Nordicに参加するテーマでもあるという事を話した。僕は英語で話をするのがそんなに上手くないのだが、途中言葉に詰まりながらもクレマンスの親切心もあって何とか面談を終えることができた。その結果、5月中旬に選考に通ったという知らせが届いた。応募した当初は「行ければ良いかな」くらいに思っていたし、今年37歳で業界歴10年以上の自分が選ばれる可能性は低いとも考えていたのだが、選考の過程で本当に行きたくなっていたので正直に言って嬉しかった。5月末に僕を含めた16人(組)の参加者達が全て公表されたのだが、日本からゲームディベロッパーとして参加するのは僕1人だけだった。そもそも僕以外にゲームで応募した人がいなかったから僕が選ばれたのかもしれない。何はともあれ、僕は9月にデンマークに行ける事となり、1ヶ月仕事を休む事をクライアントさんにも了承して頂き(改めてご理解とご協力に感謝いたします!)とても楽しみな気分で夏を過ごす事となった。

夢のような街で創作に打ち込む

Nippon Nordicの開催地はユトランド半島の中央にあるViborg(ヴィボー)という都市で、首都コペンハーゲンから遠く離れている。ここにはVIA Universityというデンマーク中央部を代表する大学のカレッジがあり、その中にはThe Animation Workshopというアニメ/CGの専門教育機関がある。さらにThe Animation Workshopと同じ敷地内にThe Aresenaletというゲーム/アニメのインキュベーション施設が隣接し、卒業生の起業やフリーランス活動をサポートしている。Arsenaletという名称でサッカーチームのArsenalを思い出した人は鋭い。そう、Arsenalのチーム名の由来ともなった武器庫を再利用した施設なのである。(ちなみに今も近くには軍事施設があるようで、いきなり装甲車が敷地内に入ってきて驚いた事があった。)今回Nippon Nordicの参加者は全員そのArsenaletに作業用の席を用意してもらい、講義もそこで受ける事となった。また、食事はVIA Universityの学食を利用する事ができた。(今回の参加費には平日の食事は全て含まれていた!)宿泊していたのは街の中心部にあるホテルだったが、そこからArsenaletには徒歩10分くらいで、夜遅くなっても帰り道がそんなに辛くなかった。何よりとても静かでのどかで平和で綺麗な道を毎日歩くのは楽しかった。この街で生活するだけでも感動的な体験がいくつかあり、そこから日本社会の問題点も再認識されたが、今回の記事についてはあくまでNippon Nordicの内容を知らせる趣旨なので、そのことについてはまた別に機会があれば話したいと思う。ただ一つすぐに伝えたいことはとにかく最高の環境だったということ。この時期The Animation Workshopが中心となってViborg Animation Festivalというイベントが街ぐるみで開催されていて、街の中の様々な場所に日本の漫画やアニメの展示が行われていたのだが、デンマークの地方都市でそのようなイベントを開催できる事に街中が誇りを感じているようにも見えた。(地元のレストランに入ると「日本の方ですね。MANGA関係ですか?」と声をかけられたりもした。)古い建物も多く残る街全体に文化的・芸術的素養が感じられ、そのような環境がThe Animation WorkshopやThe Arsenaletに集うクリエイターを自然と応援している感じがした。
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これがArsenalet。この中にインディーゲーム会社やアニメ会社がいくつも入居している。Viborgのクリエイティブセンターと言える。

街のいたるところにアニメイベントの告知が。

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奥に見える建物がArsenalet。

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敷地内に軍の装甲車が入って来たところ。

第1週〜やっぱり英語ができない!!〜

さて、現地で体験したプログラムについて。まずは第1週目、様々なジャンルの業界人の講義を受けた。その講義の内容について、僕の場合はどうしてもゲームの話に偏らざるを得ないし、一つ一つについて話すと長くなりすぎるので詳細は省略するが、個人的にはUBIやRelic Entertainmentでゲームデザインディレクターを務め、現在はコンサルタントとして活動中のAlexendre Mandryk氏の集中講義は大変有益な内容であった。(彼がRelic時代に作ったCompany Of Heroesは僕の好きなゲームである。)また、Unity Technologiesのフランス支社のフィールドエンジニアであるMathieu MullerによるUnityのTimelineとCinemachineのハンズオントレーニングも個人的には嬉しい体験であったが、多くの場合はそのような具体的な制作の技術よりも新たなIPを生み出すこと、それをマーケットに届けることについての講義だった。また、ただ講義を受けるだけでなく、ワークショップ形式で自分の作品の世界設定を深めていくような機会もあった。
それら講義やワークショップの内容には文句ない。しかしまず困ったのはとにかく自分の耳が英語に慣れていないこと。せっかく有益な話をしているのに100%の理解ができない。これはもったいないと思った。また、それ以上に話せない。自分で質問したり意見を言ったりディスカッションに入って行くことがなかなかできない。選考における英語でのインタビューを乗り越えて安心しきっていたが明らかに準備が足りなかった。来年参加を考えている人で英語がそこまで喋れない人は絶対に集中的なトレーニングを受けた方がいい。(ただし、英語が得意でないからと応募をやめてしまうのはもったいないので、まずは応募してみて欲しい。英語で応募書類を出してインタビューに答えられれば参加資格はあるはずだ。)
講義が終わると参加者一人一人に与えられた作業スペースで自分の作品のプレゼン内容を作る時間となった。また、夜にはThe Animation Workshopの学生らと一緒に日本やデンマークの短編アニメ作品を観るような時間などもあった。そこで面白い作品を見つけることができたのも良かった。
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自分の作業スペース。日本からMacMiniを持って行った。

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VIA大学の食堂でのランチ。毎日バランスのとれた食事で健康的な生活を送ることができた。

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自分の作業スペースの窓からの眺め。目の前にあるのは墓地だが、死んだらここに入ってもいいと思った。それほど平和な場所。

週末の楽しみ

あっという間に一週目は終わり最初の土曜日が訪れた。僕はホテルで自転車を借りて街の中を少し探索した。
ホテルで借りた自転車。

ホテルで借りた自転車。

近くにあったサッカースタジアム。1階は中華料理屋と寿司屋が並ぶ。

近くにあったサッカースタジアム。1階は中華料理屋と寿司屋が並ぶ。

翌日の日曜日は他の参加者と一緒にバスに乗って湖の方に行って遺跡なんかも見たりした。Viborgの街の中心部は田舎というほど田舎ではないのだが、ちょっとバスに乗るだけでこのような大自然に触れることができる。この街で暮らす事自体に何らかのインスピレーションがあると感じた。
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美しい屋敷だが、ナチシンパの持ち物だった。ナチが敗戦した途端に主人はどこかへ消えたらしい。色々と考えさせられる。

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土日もArsenaletの中には入れるので、夜は作業していた。1週目のこの時点では僕はプロトタイプデモを見せるつもりでいて、主にUnityで作業をしていた。だが翌週から大きく方針転換することとなる。

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